2024年8月14日(水)に開催された阪急囲碁まつりの催しの一つ、
プロ棋士団体トーナメントに出場し、優勝しました。
今回のブログではその模様をレポートします。
前日譚
本トーナメントの開催が発表されたのは、5月28日でした。
プロ棋士が3人1組のチームを組み、優勝を目指すというものです。
チームは関西棋院4組、日本棋院関西総本部が4組出場できます。
規定より多いエントリーがあれば予選が行われます。
棋士が団体戦に参加できることはめったにありません。
阪急囲碁まつりの中のイベントということもあり、囲碁ファンの皆さんにもお祭り気分で楽しく見てもらえると思って非常に気分が高揚していました。
しかも、発表があった日はちょうど若竹杯という、
関西総本部の若手限定トーナメントが開催されていました。
「早くチームメンバーを誘わないと出場できない!」と思い、
すぐさま若竹杯で優勝した村松大樹七段、準優勝の村本渉四段(私は三位でした)に声をかけました。
二人とも快諾してくれ、「チーム若竹」が結成されました。
実は私たち三人は、大阪府大東市の碁会所で20年以上切磋琢磨してきた仲です。
これまで幾度となく対局し、長所も短所も知り尽くしてると言っても良いでしょう。
二人は棋風も似ていて、読みが早く正確で早碁にめっぽう強いのが特徴です。
対局相手としては嫌で仕方ないのですが、チームメイトとしてはこれ以上ありません。
これは最速で最強のチームが組めたぞ!と、このときまでは思っていました。
そう、このときまでは…。
後日、関西棋院にて観戦記取材をした際、こっそりと佐田篤史七段に関西棋院のチーム事情を聞きました。
すると有力チームの名前が出るわ出るわ。
阪急納涼17番街チーム(佐田篤史七段、洪爽義五段、表悠斗二段)が強いのはもちろんですが、タイトル戦常連の村川九段と余正麒八段が組んで出るというのです。(無敵チーム:村川大介九段、余正麒八段、藤田怜央初段)
韓国修行のため、藤田初段は予選に出場できなかったのですが、2人だけで突破してみせました。まさに無敵です…。
他にも関西棋院若手有望株のチーム辻斬り(西健伸五段、辻篤仁五段、渡辺寛大三段)など、手ごわそうな面々ばかり。
佐田篤史七段は「正直(関西総本部には)申し訳ないですが全勝しますよ」と豪語しました。
それほどまでに圧倒的なチームが集まったのか、驚きとともに、こうして、チーム結成当初の自信は瞬く間に打ち砕かれたのです。
当日
関西総本部の理事である石田篤司九段は、日頃は気のいい先輩という感じですが、対局前に「頼むから決勝に関西総本部1組は残ってくれ」と激を飛ばされました。
というのも、今まで関西オープントーナメントなどで関西総本部は関西棋院に散々にやられてきているからです。催しとしても、関西総本部VS関西棋院となったほうが面白いのはもちろんです。
1回戦
初戦は チーム辻斬り(西健伸五段、辻篤仁五段、渡辺寛大三段)と対戦することに。
団体戦の醍醐味はオーダーです。
誰がどこに来るかを予想し、誰とあたれば勝率が上がるのかを予想します。
しかし、全員難敵です。私自身は当たりたい人も特にいませんでした。
ただ、つい最近秀策杯の決勝で辻五段と村本四段が対局しており、辻五段が勝って優勝したのを思い出しました。
村本四段に尋ねるとリベンジしたいとのことだったので、予想することに。
辻五段を主将に置きそうだとの予想はずばり的中、
村本-辻
村松-渡辺
の組み合わせになりました。
対局会場は指導会場の真横でした。
対局開始後、不思議と冷静になれたなあと思っていました。
周囲の声が鮮明に聞こえ、横の対局も落ち着いて見られます。
しかし、これは良くないパターンでした。
案の定、序盤で失敗して劣勢に陥ってしまいました。
ただ、団体戦ですぐに投げるわけにはいきません。粘って粘って打ち続けていたら一瞬チャンスが到来しました。ただ、正確に打つことができず残念ながら敗戦。
「ああ、これで一回戦敗退か。メインのイベントでも見て帰ろうかな」などとのんきに思っていたら、なんとチームメイト二人が連勝し、早々と勝ち抜けを決めていたのです。
なんだ、それならあんなに粘らなくても良かったかもと、ほんの少しだけ思いました。
横の山では大波乱が起きていました。
優勝候補大本命と思われていたチーム無敵がチーム涼しくしたいけど物価高(田中伸幸五段、大谷直輝四段、鳥井裕太四段)に負けたというのです。しかも3連勝だったとのこと。
準決勝
棋士歴3人で90年チーム(中野泰宏九段、古谷裕八段、藤井秀哉八段)との対戦です。
名前通りのベテランチームで、控室では、粘り強い三人が集まったなとの声が聞こえてきました。
一回戦から時間もなかったので、お弁当をかきこみ、すぐの対局開始です。
大橋-中野
村松-藤井
古谷-村本 の対戦カードに決定しました。
一回戦の反省を生かし、盤面だけに集中することに成功しました。
お陰でチームメイトの進行は全くわかりません。
序盤で成功したと思いましたが、一進一退の攻防で気がつけば半目勝負。長時間打ち続けて半目残しました。
横の2局は随分前に終わっていたようでした。結果は2勝1敗で勝利。値千金の半目でした。
横の山ではまたもや大波乱があったようでした。
涼しくしたいけど物価高チームが阪急納涼17番街チーム(佐田篤史七段、洪爽義五段、表悠斗二段)に勝って決勝進出したというのです。しかもまたもや3連勝だったといいます。
なんと関西総本部同士の決勝戦になってしまいました。
きっとだれも予想していなかった展開でしょう。
決勝戦
チーム涼しくしたいけど物価高(田中伸幸五段、大谷直輝四段、鳥井裕太四段)との対決です。
関西総本部で長年打ってきた相手で、対戦相手の希望も特にありませんでした。
ただ、オーダーを相手に読まれるのは嫌なので、前回からは変えることにしました。
唯一2連勝の村本四段を主将にして、副将は今までなっていなかった私、三将が村松七段です。
村本-大谷
大橋-鳥井
村松-田中 の組み合わせになりました。
準決勝終局五分後には決勝戦開始のハードスケジュールです。
対局相手の鳥井裕太四段は一回戦で余正麒八段、準決勝で佐田篤史七段を撃破しており、今大会のMVPだと言っても過言ではないでしょう。
ただ、鳥井四段には不思議と今まで負けたことがなく、当の鳥井四段も「どうやって勝ったらええの」とぼやくほどです。不思議と相性があるみたいです。
対局は大盤解説会場で中継されています。解説の声が嫌でも耳に入ってきます。
対局者に配慮して、名前や形勢は言わないようにされているのですが、「白の大石が取られた」と聞こえてきました。
団体戦の先後は主将から順に黒白黒のように決まります。
副将の私は白番でした。ということは、チームメイトのどちらかが大石を取ったのです。
ああ、こんなことを考えていてはいけないと、ここで我にもどり、一回戦の反省を生かして盤面に集中しました。
そのおかげか一番乗りで勝利。二人の対局を見届けることになりました。
大盤解説も少し担当しましたが、3局打って疲労困憊の頭では計算ができません。
計算とヨセに定評のある佐田篤史七段の解説をありがたく拝聴するのみでした。
そうこうしている間に村松-田中戦が終局し、田中伸幸五段の勝利。
優勝は主将戦の結果に委ねられました。
二人の気合がほとばしる碁で、終盤までずっと手に汗握るコウ争いを演じていました。
結果は村本四段の勝利。チーム若竹の優勝が決まりました。
ファンの方に見ていただいているなかでの、団体戦の優勝というのは格別でした。
今まで関西オープンで負けっぱなしだった関西棋院に一矢報いることができたのも嬉しい限りです。
表彰式終了後に、若竹杯のスポンサーである竹村さんに食事を御馳走になりました。
「まさか優勝するとは思わんかったわ」とのことでしたが、本当にそのとおりです。
若竹杯で長年にわたって関西総本部の若手を鍛えていただいた賜物だと、改めて謝辞を伝えました。
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